2015年8月17日午後7時頃、バンコク中心部ラチャプラソン交差点で発生した爆弾テロ事件は、タイ警察当局による捜査が続けられ、爆発当時の映像や、容疑者の似顔絵が公開され、懸賞金300万バーツ以上が懸けられるなどしているものの、依然として容疑者逮捕のニュースは報じられていません。

タイ国内でのテロ事件と言えば、日本ではあまり大きく報じられることがありませんが、マレーシアとの国境に近い3県(いわゆる”タイ深南部3県”)にて断続的に爆弾テロ事件が発生しています。この南部3県の爆弾テロを長年に渡って現地取材を続けているジャーナリストの齋藤正行さんに、今回のラチャプラソン爆弾テロ事件について聞きました。


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取材中の齋藤正行さん ― タイ深南部ヤラー県の爆弾テロ現場にて

――17日の爆弾テロ事件では、現場に行かれましたか。

はい。事件発生から1時間後くらいに、現場に到着しました。現場は混乱していましたが、爆発によって亡くなられたご遺体には白い布がかけられていました。その後、他にも爆発物が発見されたため、新たに非常線が張られ、報道陣も交差点から50メートルくらいに設定されていた立入禁止線から、さらに50メートル後退するよう命じられました。

――現場に到着して感じられた印象は、どのようなものでしたか。

こうした爆発事件が発生した際には、軍や警察が事件現場から立ち去る人の流れを監視し、少しでも怪しいと思われる人物を片っ端から拘束していくはずですが、今回の事件ではそのような取り締まりが一切されていなかったことが気になりました。現場に駆けつけた警官らが、爆弾テロ事件への対応に不慣れてであることが分かりました。


――爆弾テロが多発している深南部3県では、対応が違いますか。

そうですね。徹底的に不審者を拘束します。深南部における爆弾テロに対峙する捜査ノウハウが、バンコクでは活かせていなかったように感じました。


――深南部の爆弾テロとの違いという点で、何か感じることはありますか。

今回(17日)の爆発は、死者・負傷者の数だけ見ると、イラクやアフガニスタンなどで発生している自爆テロに次ぐ規模のもので、タイ深南部だけでなく、世界的に見ても、非常に大きな爆弾テロ事件が実行されたことになります。


――このような爆弾が、容易に製造もしくは入手できるのでしょうか。

使用された爆薬が、C4あるいはTNTだったと伝えられています。このような材料が簡単に入手できるのかどうかについては判断しかねます。

爆薬の入手ルートとして考えられるのは、テロ実行犯らが国外から持ち込んだという可能性に加え、軍あるいは警察が保有するものが持ち出された可能性もあります。こうした可能性についても、捜査が進められているものと思います。


――現在のタイ国内報道では、10名前後の外国人グループと伝えられています。

どのようなグループが爆弾テロを実行したのかについては想像もできませんが、外国人のみで構成されたグループである可能性は低いでしょう。

また、犯行グループが「10名程度」と報道されている点については、実際に発生した爆破テロの規模から判断して、最低でも10名程度の人物が関わっていないと実行できないことを根拠として出てきた数字だと思います。一部では、捜査当局が具体的にグループのメンバーについて特定していて「10名」という数字を出しているとの見方もありますが、個人的には違うと思います。


――警察当局が事前に情報を入手していたという説もありますが。

いつでも同様の事件では、そういった類の話は出てきますが、今回についても実際のところ、分かりません。


――単独あるいは少数の可能性も考えられますか。

事件発生後に捜査当局が公開した黄色いシャツの人物は、爆発物を現場に置く役割のみを実行したのかもしれません。深南部テロの要領から考えると、爆弾の起爆には、携帯電話やデジタルウォッチのアラーム、クルマの施錠リモコン、ドローンやラジコンなどが使用され、単独による犯行も可能ですが、爆弾を起爆する役割の人間が同じ現場にいたと考える方が自然です。

そして、現場から足早に立ち去った黄色いシャツの人物(爆弾設置係)以外の人間について、警察の対応次第では拘束できた可能性があったのではないかと思います。


――事件の対応に軍の出動はなく、警察のみで進められていますね。

軍人が捜査に出ない理由は、現在のタイの軍事政権下における政治的な論理も含まれるかもしれませんが、それよりも、今回の爆弾テロ事件について、タイ政府が事態を軽視しているように感じられます。ラチャプラソンの爆発の翌日18日に発生したサパンタクシン(タクシン橋)の爆発でも、爆発現場の脇を外国人観光客らが平然と行き来できる状態のまま捜査が行われていて、その光景には、ぞっとしました。

タイ軍政と国民とで、事態の重大さの捉え方に温度差があると感じられます。


――ありがとうございました。

いえいえ。ありがとうございました。


※齋藤正行さんは、タイ深南部の爆弾テロ取材のほか、タイのニュースを中心としたフリーペーパー「ニュースクリップ」を発行、タイに関するコラムの執筆など、多岐にわたって活躍されております。

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